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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)11568号 判決 1988年5月24日

原告

株式会社トヨタレンタリース東京

被告

佐久間運送株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、七四万八五〇〇円及び内六五万八五〇〇円に対する昭和六一年一〇月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一)日時 昭和六一年一〇月二二日午前一一時一〇分ころ

(二) 場所 東京都江戸川区西葛西二丁目一七番先交差点(以下「本件交差点」という。)上

(三) 被告車 普通貨物自動車(足立一一う九六七六号、以下「被告車」という。)

右運転者 訴外関口実(以下「関口」という。)

(四) 原告車 普通乗用自動車(習志野五八ら九三四一号、以下「原告車」という。)

右運転者 訴外高浜光鋭(以下「高浜」という。)

右所有者 原告

(五) 態様 被告車が、葛西方面から本件交差点に進入して宇喜田町方面へ右折した際、荒川河川方面から本件交差点に進入し葛西方面へ対向直進してきた原告車と衝突した(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

本件交差点は清新町方面(南方)から葛西橋通り方面(北方)に通ずる船堀街道とこれに東西両側から接続する道路とがほぼ直角に交差する信号機により交通整理の行われている十字路交差点であるところ、関口は、被告車を運転して船堀街道に東側から接続する道路(以下「被告車進行道路」という。)を西進して本件交差点に至り、葛西橋通り方面(北方)に向かうため本件交差点を右折しようとしたのであるから、船堀街道に西側から接続する道路(以下「原告車進行道路」という。)を直進して本件交差点に進入して来る車両との衝突を回避するため、本件交差点内のコの字様の右折車停止線(以下「本件右折車停止線」という。)で一時停止したうえ、同道路を東進して来る車両の有無を確認し、かかる車両が存在する場合には同車両の位置や速度について適確な判断をして同車両との衝突の危険がないことを確認した後に右折進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、一時停止をせず、対向車両の有無も確認しないまま漫然右折進行した過失により、折から青色信号に従つて本件交差点に直進進入してきた原告車に被告車を衝突させたものである。

そして、関口は、被告の従業員であり、被告の業務の執行として被告車を運転中に本件事故を発生させたものである。

よつて被告は、民法七一五条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害 合計七四万八五〇〇円

(一) 原告車修理代 六五万八五〇〇円

本件事故により原告車は破損し、原告は右修理代相当の六五万八五〇〇円の損害を被つた。

(二) 弁護士費用 九万円

4  結論

よつて、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として七四万八五〇〇円及び弁護士費用を除く内金六五万八五〇〇円に対する本件事故発生の日である昭和六一年一〇月二二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実のうち、(一)ないし(四)は認めるが、(五)は否認する。

2(一)  同2(責任原因)の事実のうち、関口が本件事故当時、被告の従業員であり、被告の業務執行として被告車を運転していたものであることは認めるが、その余の事実は否認し、本件事故により原告が被つた損害につき被告に民法七一五条に基づく賠償責任がある旨の主張は争う。

(二)  本件事故は高浜の一方的かつ全面的な過失により発生したもので、関口には過失がない。

即ち、原告車進行道路の南側は防波堤(以下「本件防波堤」という。)が続いていて、右方の見通しが極端に悪い状況であつた。本件交差点では事故が頻発し、本件事故後本件防波堤のうち本件交差点付近の部分が撤去されているが、これは新田通り方面から被告車進行道路を西進して本件交差点を右折し葛西橋通り方面に向かう車両が本件交差点内の本件右折車停止線で一時停止して左方を見ても、船堀街道方面から原告車進行道路を東進して来る直進車を発見することが不可能であつたからである。

他方、原告車の進行方向からは、本件交差点が変則交差点であり、しかも本件防波堤によつて見通しを妨げられるため、本件交差点に進入しなければ右折車の存在を確認することは不可能である。

関口は、被告車を運転して被告車進行道路北側車線を西進し、対面信号機の青色表示に従い先行する乗用車に追随して毎時四ないし五キロメートルの速度で本件交差点を右折進行したが、本件右折車停止線においては、本件防波堤によつて原告車進行道路に対する見通しを妨げられ、同道路を東進して来る対向車両の存在を確認することができなかつたため、右折車停止線で一時停止することなく毎時一〇ないし一五キロメートルの速度に加速しながら右折進行を続けたが、原告車進行道路に対する見通しが可能となつた最初の地点(右折車停止線を二〇ないし三〇センチメートル越えた地点)で左方の原告車進行道路を見たところ、同道路から毎時五〇ないし六〇キロメートルの高速度で本件交差点内に進入して来る原告車を左前方約一一・三メートルの至近距離に発見し、直ちに急制動の措置を採つたが間に合わず、被告車の前部バンパー左角及び左ステツプに原告車の前部が衝突した。

関口としては、仮に本件右折車停止線手前で一時停止していたとしても、前記のとおり本件防波堤によつて原告車進行道路に対する見通しを妨げられ、同道路を東進して来る対向車両の存在を確認することは不可能であつたから、本件事故についての予見可能性はなかつたし、毎時一〇ないし一五キロメートルの速度で右折進行を続けていた以上、原告車を発見した位置においていかなる措置を採つても原告車との衝突を避けることは不可能であつたから、本件事故については回避可能性もなかつたものである。

他方高浜としては、前記のとおり原告車の進行方向からは本件防波堤によつて見通しを妨げられて本件交差点に進入しなければ対向右折車の動向を確認できない状況であつたのであるから、対面信号が青色を表示していたとしても、本件交差点の手前で一時停止するか又は徐行して対向右折車の動向を確認すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、漫然毎時五〇ないし六〇キロメートルの高速度で本件交差点に進入した過失があることは明らかである。

したがつて、本件事故は高浜の一方的かつ全面的な過失により発生したものであり、関口には何ら過失がないものというべきであるから、被告は本件事故につき不法行為責任を負うものではない。

3  同3(損害)の事実は知らない。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実のうち、(一)ないし(四)の事実及び同2(責任原因)の事実のうち、関口が本件事故当時被告の従業員であり、同人が被告の業務の執行として被告車を運転中に本件事故が発生したものであることはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこでまず、本件事故の態様及び関口の過失の有無について判断する。

右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一号証及び第四号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二及び第三号証、本件事故現場付近を撮影した写真であることについて争いがなく弁論の全趣旨により昭和六二年一〇月一一日西野勝也が撮影したものと認められる乙第一号証の一ないし一一、原告車の破損状況を撮影した写真であることについて争いのない乙第二号証、証人高浜光鋭及び同関口実の各証言(但し、いずれも後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、この認定に反する証人高浜光鋭及び同関口実の各証言部分はいずれもこれを採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  本件交差点は清新町方面(南方)から葛西橋通り方面(北方)に通ずる船堀街道とこれに東側から接続する道路(被告車進行道路)及び西側から接続する道路(原告車進行道路)とがほぼ直角に交差する信号機により交通整理の行われている十字路交差点である。各道路の車道幅員は、船堀街道が約一六メートル、被告車進行道路が約二七メートル、原告車進行道路が約八メートルであり、いずれもセンターライン、中央分離帯又はグリーンベルトによつて上下各二車線に区分されているが、被告車進行道路の上下車線を区分しているグリーンベルトの幅が約一四メートルもあるため、実際に車両が走行できる車道幅は片側車線について約七メートルしかない。右各道路の路面は、いずれもアスフアルト舗装が施され平坦であつたが、本件事故当時は雨が降つていたため、湿潤であつた。また、本件事故当時、右各道路には最高速度四〇キロメートル、終日駐車禁止の各交通規制が実施されていた。

本件交差点の四方の各入口の路上には白線によつて幅約四メートルの横断歩道が表示されているほか、本件交差点のほぼ中央には被告車進行道路の南側車線(西進車線)から船堀街道の葛西橋通り方面(北方)に向かつて右折する車両のためにコの字型の右折車停止線(本件右折車停止線)が白線によつて表示されている。

原告車進行道路の南側は本件交差点の数十メートル西側から本件交差点付近にかけて高さ約三メートルのコンクリート製の防波堤(本件防波堤)が続いている(本件防波堤は、本件事故当時には本件交差点西側入口の原告車進行道路上に設置されている横断歩道まで続いていたが、本件事故後本件交差点付近の数メートルの部分が撤去された。)。また、原告車進行道路の本件交差点入口が被告車進行道路の本件交差点入口の北側寄りの位置に設置されている(原告車進行道路と被告車進行道路北側車線(新田通り方面に向かう車線)とがほぼ直線上にある。)ため、被告車進行道路の南側車線を西進して原告車進行道路に進入しようとする車両は、本件交差点内で一旦斜め右前方に進行方向を変えなければならない。

そして、右のような船堀街道と原告車及び被告車各進行道路の形状、幅員及び接続状況のため、原告車進行道路北側車線を東進する車両からは、本件防波堤に遮られて本件交差点の入口の手前約二〇メートルの地点に至るまで本件交差点の南半分及び被告車進行道路南側車線に対する見通しがきかず、また、被告車進行道路南側車線の本件交差点の入口付近を西進する車両から原告車進行道路北側車線に対する見通しは、やはり本件防波堤に遮られるため、本件交差点入口から西方約二〇メートルの地点までしかない。加えて、本件事故当時は雨天であつたため、被告車進行道路南側車線と原告車進行道路北側車線相互の右見通しは更に限定された状態にあつた。もつとも、本件右折車停止線の直近手前の位置からは、原告車進行道路北側車線を本件交差点入口から西方数十メートルの地点まで見通すことが可能であつた。

2  被告車は、最大積載量四トンの普通貨物自動車であり、本件事故当時鋼管をつなぐ継ぎ手約四トンを荷台に積載し、対面の青色信号に従い被告車進行道路南側車線を西進して本件交差点に進入し、船堀街道の葛西橋通り方面(北方)へ毎時十数キロメートルの速度で右折進行した際、対面信号機が青色を示していたことに気を許し、本件右折車停止線手前で一時停止をせず、また原告車進行道路北側車線を東進して来る対向車両の有無を確認しなかつたことから、折から青色信号に従つて原告車進行道路北側車線を東進し被告車進行道路北側車線に入るべく本件交差点に直進進入してきた原告車の存在を被告車の左前方約一一メートルの地点に初めて認め、慌てて急制動の措置を採つたものの間に合わず、被告車の前部バンパー左角及び左ステツプを原告車の前部に衝突させた。

本件事故の態様は右認定のとおりであり、被告は、本件右折車停止線付近からは、本件防波堤によつて原告車進行道路に対する見通しを妨げられるため、同道路を東進して来る対向車両が本件交差点に進入するまでその存在を確認することは不可能である旨主張し、証人関口実も本件右折車停止線において原告車進行道路を東進して来る車両の有無を確認したが、本件防波堤のため見通しを妨げられて車両の有無を確認することができなかつた旨供述するが、前掲甲第四号証の二及び乙第一号証の一ないし一一の各写真によれば、本件事故当時、本件右折車停止線の位置からは少なくとも本件交差点入口の西方数十メートルの地点までの原告車進行道路北側車線を見通すことが可能であつたことは明らかであるから、証人関口の右証言、したがつてまた被告の右主張も採用の余地がないといわざるを得ない。また、同証人は、被告車は毎時四ないし五キロメートルの速度で本件交差点を右折進行した旨供述しながら、原告車を発見して急制動の措置を採つてから被告車が停止するまで約九・三メートル進行している理由について追及されるや、原告車に衝突された衝撃で押されたからであるとか、荷物を積んでいたため急には止まれなかつたなどと不合理な弁解を繰り返し(前掲甲第四号証の二によれば、本件事故当時原告車と被告車は約一二〇度の角度で衝突していることが認められるところ、右のような衝突状況においては、被告車は原告車との衝突によつてその速度を減殺されることはありえても、原告車によつてその速度を増幅されることはありえない。また、車両重量がいくら重いとしても、毎時四ないし五キロメートルの速度で進行中に急制動の措置を採つたにもかかわらず九メートル余りも進行してしまうということは経験則に反することはなはだしいといわざるをえない。)、本件事故現場において自らした指示説明に基づいて作成された実況見分調書である前掲甲第四号証の二の記載内容とも矛盾する供述をし、更に、原告車は毎時五〇ないし六〇キロメートルの高速度で被告車に先行する車両の側面に向かつて突つ込んで来たなどと、その証言には自己の過失を糊塗隠蔽しようとする意図に出たものが随所に認められ、少なくとも前記認定に反する部分は到底信用するに値しない。

ところで、前記認定事実によれば、被告車を運転していた関口としては、本件交差点を右折するに際しては、対面信号が青色を表示していたとしても、そのまま本件交差点内を右折進行するときには、原告車進行道路北側車線を東進して来る対向車両の進路を妨害し、当該車両と被告車とが衝突する事故に至ることのあり得ることを十分に予見できたのであるから、右のような事故の発生を回避するため、本件右折車停止線の直近手前において一時停止したうえ、原告車進行道路北側車線を東進して来る対向車両の有無を十分に確認し、対向直進車両が存在しないこと、あるいは対向直進車両が存在する場合にはその位置及び速度を適確に判断して当該車両の運転者に対して衝突の危険を感じさせることなく安全に被告車の右折を終了することができることを確認した後に被告車の右折進行を開始すべき注意義務がある(道路交通法三七条)のに、これを怠り、対面信号機が青色を示していたことに気を許し、本件右折車停止線の直近手前において一時停止をせず、また、原告車進行道路北側車線を東進して来る対向車両の有無も十分に確認しないまま漫然毎時十数キロメートルの速度で右折進行した重大な過失により、本件事故を惹起したことが明らかというべきであり、関口の無過失をいう被告の主張は採用の余地がない。

そして、本件事故当時、関口が被告の従業員であり、同人が被告の業務の執行として被告車を運転中に本件事故が発生したことは前記のように当事者間に争いがないところであるから、被告は民法七一五条に基づき本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任があるものというべきである。

三  進んで原告の損害について判断する。

1  原告車修理代 六五万八五〇〇円

原告車が原告の所有であることは当事者間に争いがなく、前掲甲第二号証及び乙第二号証並びに成立に争いのない甲第七号証によれば、本件事故により原告車の前部が破損し、原告はその修理費として六五万八五〇〇円を負担したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、本件事故状況及び道路状況に関する前記認定事実によれば、原告車を運転していた高浜にも本件交差点に進入して来る他車に対する安全確認が不十分であつたなどの落度があつたものと認められるが、原告車が本件交差点に制限速度を超える速度で進入したと認めるに足りる証拠はないうえ、右落度は関口の前記重過失に照らし極めて軽微なものにとどまるものと認められること、原告の前記認定損害額が比較的少額であることなどの事情に照らすと、高浜の右落度を過失相殺事由として斟酌することは、公平の観念に照らし相当でない。

2  弁護士費用 九万円

弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟の提起及び遂行を原告訴訟代理人に委任し、その費用及び報酬として相当額の支払いを約していることが認められるところ、本件事案の性質及び難易、審理の経過、認容額等に鑑みると、原告が本件事故による損害として被告に賠償を求めうる弁護士費用の額は九万円をもつて相当と認める。

四  結論

以上のとおり、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸 原田卓 潮見直之)

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